真の観光立国へ25の提言

はじめに

わが国経済が、2003年度第4四半期以降、業種、規模及び地域による相異はあるが、漸く明るさを取り戻しつつあることは、誠に喜ばしいことである。また、観光関連産業においても、テロの続発、SARSや鳥インフルエンザの発生といった度重なる逆風の後遺症の中にあったが、漸く僅かではるが、明るさを取り戻しつつあり、今後の更なる回復に期待を募らせているところである。

JNTO(国際観光振興会)統計(02年)によれば、輸出額で、国際観光(5,550億ドル)は、自動車(5,490億ドル)を押さえて、既に、第1位であり、今後、益々、国際観光が、世界経済の中で、大きな位置を占めると言われている。

このような趨勢のもと、2003年1月の小泉総理大臣の観光立国元年の宣言は、誠に時宜を得た、わが国の歴史上初の総理大臣による観光宣言であり、観光産業のみならず、わが国産業界全般にわたり、大いなる勇気と力を与える画期的な表明といわなければならない。

しかしながら、国の目指す観光立国の意義及びその重要性についての国民的理解・コンセンサスは、残念ながら、いまだ充分とは言い難い状況ではないだろうか。この問題の解決には、日本人の無意識の同質性の壁を打破し、真の国際的視野を持ち、かつ行動できる人材を増やし、外国人も仲間に入れ融合する国民の意識改革からはじめる必要がある。このハードルを越える努力が、「真の観光立国」実現へ向けての第一歩となることを、先ず認識しなければならないであろう。

一方、アジア太平洋地域は、今、世界の観光の中心地へ変貌中であり、観光立国として更なる観光投資促進策を着々と推進するオーストラリア*1、人口の2倍近くの海外観光客を受け入れ、更に大掛かりな観光都市建設に着手しているシンガポール*2、97年を「中国観光年」とし、「減らない資源」の有効活用による観光大国へ日々進化する中国*3など、その他多くのアジア諸国が、国をあげて、世界からの客人を迎える用意と戦略を練っており、わが国も更なる競争力の強化向上を図ると同時に、アジア諸国と連携して、観光を通じて、平和友好の実現に貢献することも重要である。

このようなアジア諸国を含む世界情勢のもと、21世紀観光立国への実現の成否は、一に懸かって国民一人ひとりの理解と協力を抜きには考えられず、観光振興の本格的な推進の重要性について、国民各層からの幅広い理解と協力をうる事が最重要課題であることを認識し、より積極的な取り組みが望まれるところである。観光*4の本質が、人と人との相互互換的な文化行為からなり立ち、その場所の特定されない極めて裾野の広い分野に関連することに鑑み、以下に示す各観光関連分野にわたり、今、最も求められているより各論的、具体的施策について、学際的立場より、提言を取りまとめた。

本提言のひとつなりとも、今後の国の観光 国(くに) づくりの指針の一つに資すれば、本学会としてこの上ない喜びとするところである。

【脚注】

1. 同国の観光産業のGDP占有率は、約10%、外貨獲得では、1997年、全産業トップの約1.28兆円。91年に観光省を設立。観光投資促進策として「観光に関連する駐車場、道路、歩道などの整備に対する資本コストは、今後40年にわたり年2.5%の控除を認める」。更に海外からの投資の承認手続の簡素化等様々な緩和を実施している。

2. 観光収入は、国家歳出の50%に近い、約2,088億円(94年)にのぼる。95年、「Tourism21」の観光振興ビジョンを発表、観光都市の演出(歴史、文化などの11のテーマゾーンの開発)や大型プロモーション、観光関連ビジネスなどのガイドラインを示した。観光関連企業に対する助成金支援制度では、10年間で、総額14.4億円を提供、99年から、テーマパークや各種イベント、目新しいツァー企画などへ支援を行っている。

3. 90年代に入って急速に観光立国に取り組み始め、国際観光到着数で96年、メキシコを抜き、世界第6位となり、97年、政府は、「中国観光年」を宣言、観光地の開発、美化やサービス向上に向けて、国民一丸となって取り組み始めている。工業化だけでなく観光産業でも中国は、アジアの巨人としての足固めを始めている。

4. 観光とは、五感をゆさぶり、知性と感性を満足させる異質環境に入ることである。伝統的観光の定義と用法について、政府の観光政策審議会の観光の定義「余暇時間の中で日常生活圏を離れて行う様々な行動であって、ふれあい、学び、遊びということを目的とするもの」では、下記の観点より、もはや、現実の国際交流の一部しか表現できなくなっている。

世界のWTO加盟国では、あらゆる種類の旅行者を「ツーリスト」として扱っているが、わが国では、「ツーリスト」を「観光客」と翻訳し使用している為、「観光客」の中に、本来の観光客以外の「ビジネス客」(商用客)や「その他」(一時上陸客、航空・船舶乗務員など)が含まれている。またJNTOの区分や法務省の区分でも観光客はツーリスト(訪問外客)の約半分であり、残りの半分は、ビジネス客その他となっている。

【目次】

○はじめに

○政治・行政
観光のより良いシステム造りは、為政者の掌の中にあり
提言1. 政府自身の強い意志こそが求められている
提言2. 価値観の転換の真の理解と為政者としての自信と責任
提言3. 政財界トップによる観光客誘致への熱意と努力
提言4. 一大世界観光交流時代突入に備え、観光文化省庁の早期設置
提言5. わが国の国際観光の発展にとって、日本の空の航空輸送力の確保こそ重要
提言6. 中国人観光ビザの緩和と受け入れ体制の早期整備
提言7. 観光による国際交流進展のための予算確保が重要
提言8. 「外国人観光客歓迎」を明確に伝える国の本気度が重要

○経済・産業
経済は、観光により潤い、観光により豊かに成長する
提言9. 諸外国の観光立国の成功例に学ぶことが重要
提言10. 非貿易財の競争力向上
提言11. 地域観光再生のための新たな資金調達手法の開発と制度設計が重要
提言12. 代価に見合った旅行商品の開発と提供が重要

○社会・文化
観光は、平和と安全へのパスポートであり、文化の薫りは、旅人の感動をよび覚ます
提言13. 世界トップクラスの平和と安全の水準維持・向上
提言14. 日本人の同質性と二元意識の認識と変革努力
提言15. 来訪者の文化的背景に応じた夫々の「もてなし」を用意
提言16. 未知の土地で不安の募る旅人の心を癒す「思いやり」と「おもてなし」
提言17. 世界希有の四季の豊かさと東西文化融合美の生み出す世界遺産の魅力
提言18. 日本の伝統文化の魅力を世界に発信する伝統文化ミュージアム の設置
提言19. 日本固有の伝統文化・芸能の世界への門戸開放
提言20. 日本の食文化を日本の新しい観光の魅力として再発見
提言21. 映像文化こそ、世界の多くの人々を日本の魅力で陶酔させる絶好の機会

○教育
観光は、旅人へ夢と感動を与えることを喜びとする知性と感性豊かな人材を育む
提言22. 大学等の国際学部の学生や教授等の人材交流による国際的な観光人材の育成
提言23. 初・中等教育における観光教育の実施及び観光福祉アドバイザー制度(仮)の導入
提言24. 留学生制度の充実
提言25. 観光ホスピタリティ研修センター(仮)の設置

○むすび
1. 15年後に迫る一大世界観光交流時代に今から備えよう
2. 世界との交流により得られる様々な利益や喜びが国を豊かにする
3. 日本のこれまでの実績と日本の素晴しさに対する誇りと自信を取り戻そう